1冊の本が巻き起こしたベジタリアンブーム
1900年半ばまではアメリカでも肉はそれほど食べられていませんでした。肉はとても高価でしたし、今のように冷蔵技術が確立していませんから貯蔵も容易ではありませんでした。流通も発達しておらず、国の隅々まで肉が行き渡ることもありませんでした。しかし第2次世界大戦後、経済が急激に発達していくと肉がアメリカ全土へ急速に普及し、消費も大きく増えました。ただ、皮肉なことにそれに伴ってがんや心臓の病気、糖尿病などの病気もアメリカで急激に増えていったのです。
そんなアメリカでベジタリアニズム(菜食主義)が広く知られるようになったのは、飢餓と食糧問題に関する世界的に有名な専門家、フランシス・ムア・ラッペ の著書、『Diet for a Small Planet(小さな惑星の緑の食卓)』が1971年に出版されたのがきっかけ。肉や魚を摂取しなくても野菜やフルーツ、穀物、豆類などを食べていれば人はちゃんと生きていけることを説いたこの本はミリオンセラーとなり、アメリカに大きなベジタリアンムーブメントを起こしました。
西海岸にベジタリアンが多いのは
ヒッピー文化の影響があるから
このベジタリアンムーブメントを歓迎したのが60年代にアメリカで生まれたヒッピー文化のヒッピーたち。当時の政治や社会などに反抗し、「LOVE & PEACE」の理想を掲げた彼らの思想に、動物を食べないベジタリアンという考えは非常にマッチしたのです 。そして『Diet for a Small Planet(小さな惑星の緑の食卓)』 が出版された71年、当時のヒッピー文化の中心地、サンフランシスコのヒッピーたちがテネシー州サマータウンに「The Farm(ザ・ファーム)」というベジタリアンのコミューンを作りました。彼らは多くの大豆を使ったレシピを作ったり、豆腐の作り方を紹介したりと、アメリカにおける大豆食品の普及に大きく貢献しました。ちなみにザ・ファームは今でも存在し、数百人のメンバーが暮らしていますが、その象徴的な人物、スティーブン・ガスキンは2014年に亡くなっています。
いずれにせよ、過去に遡ればそういったヒッピー文化の影響があるサンフランシスコ、またファッションとして健康的な食生活を嗜好するセレブが多く住むロサンゼルス、さらに環境保全、地産地消などをキーワードにサステイナブル(持続可能)な都市政策がうまくいっているポートランドなどが牽引する形で、西海岸は全米でも特にベジタリアンが多い地として知られているのです。
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