先日、「わかっているつもりでも、実はわかっていない"がん"の話」
というセミナーに参加してきました。
講師は、日本でがん治療を専門にされている谷川啓司先生。
消化器外科、腫瘍外科の専門で、東京女子医大の消化器外科勤務ののち、
2001年にがんの免疫治療を専門とする「ビオセラクリニック」を開院。
がん治療の中でも「がんの免疫療法」の権威です。
アメリカでの学会出席のために渡米されていたところ、
滞在を1日延ばして今回のセミナーを行ってくださったとのこと。
終始、「誰にでもわかりやすく」説明されていたのが印象的でした。
私自身、父をがんで亡くしていて、
「がんは怖い」「がん治療は辛い」というイメージと共に、
「自分もがんになるのでは?」「がん家系では?」
という恐怖が常にありました。
セミナー参加者にも、がん患者やその家族が多かったようですが、
そんな私たちに対し
「がんはむやみに怖がる必要はない」
と何度もおっしゃっていました。
それでは、セミナーの内容をご紹介します。
そもそも"がん"てなんだ?
私たち人間を作る細胞は最初1個(受精卵)からスタートし、
数億個(赤ちゃん)になって生まれ、
18〜20才くらいで60兆個になります。
それ以上細胞の総数は増えず、
大人になった私たちの細胞は
生まれては死に、生まれては死にを繰り返して
入れ替わっている状態です。
それらが全て正常な細胞であれば問題ありません。でも…
細胞は、中にあるDNA(遺伝子。私たちの身体を作るための設計図のようなもの)を
コピーしながら入れ替わっていくのですが、
たまに、このコピーに間違いが起こり、
異常な細胞が生まれてしまうのだとか。
この異常な細胞が、がんなのですが、
「異常な細胞=全てがん細胞」というわけではなく、
下記2つの条件を両方満たして初めて、がん細胞と言うそうです。
がん細胞の条件
1.細胞が死ぬよりも増える速度が速い
例えば、本来2週間で分裂して増え、2週間で死んでいく細胞が、寿命は変わらず2日に1で分裂するようになった状態。細胞が異常増殖していき、やがては目に見える大きな塊(=腫瘍)になっていく。
2.他の臓器に移っても生きられる
胃の細胞は胃でしか生きられませんが、血管やリンパ管を通って移動した後、がん細胞は他臓器に移動しても生きられる。
1だけならば「良性腫瘍」、1と2が重なると「悪性腫瘍」ということになります。
そしてこのがん細胞が生まれてしまうのは、「ただの偶然」だそうです。
環境因子(例:アスベスト)、生活因子(例:タバコ)、
時間因子(長く生きている)などにより、発生確率は上がるものの、
あくまでも偶然。全く同じ条件で生活していても、
がんになる人とそうでない人がいるわけです。
そもそも死ぬってどういうこと?
2つ目の"そもそも"。
「死ぬ」ってどういうことなのでしょう。
「死ぬ」とは
「生きるのに必要な臓器が、
生きるのに必要な機能を維持できなくなる」こと。
肝臓、肺、心臓、血液など「生きるのに必要な臓器」にはそれぞれ、
「生き続けるのに必要な機能のレベル」があるのだそう。
極論すれば、それらの臓器以外、例えば脚などはなくなっても、死なない。
また、それら重要な臓器の機能が生きるのに
必要な最低レベルを下回らなければ、死なないわけです。
日本人の死因1位はがんで、1年間の死亡者数のうち、
1/3の人はがんで亡くなっています。
でも、がんで死ぬってどういうことなの?というと、
がん細胞の増殖により、重要な臓器の機能が必要レベルを下回るために、
生命維持ができなくなって死に至るということ、だそうです。
なるほど。
そういうことだったのか。
今まで死に対して漠然としたイメージしかなかったのですが、
とてもシンプルに説明されてすっきりしました。
がん細胞ができても、場所が重要な臓器でなければ死なないわけですね。
しかし前述したように、がん細胞には「転移する」という特性があります。
例えば脚の骨にがん細胞ができること自体は大事ではないけれど、
そこから血管を通って肝臓にいき、増殖し、
肝臓の機能を低下させると生命維持ができなくなるわけです。
がんはどうやって治療するのか?
がんの治療法と言えば
A 放射線
B 手術
C 抗がん剤
ですよね。
これらは大きく2つに分けることができ、
AとBは局所治療で「がん細胞の塊を除去する」こと。
要はがんの場所が分かっていて、目に見えないと
施すことができない治療法です。
Cは全身治療で、がんの場所が分かっていなくてもできる治療法。
では具体的にどのような効果があるのでしょうか。
抗がん剤治療と免疫治療
抗がん剤治療というと、とにかく副作用が辛いというイメージがありますよね。
そんな辛い思いをしてまで、なぜ抗がん剤治療をしなければならないのか?
がん細胞は増えるスピードが速いというお話をしましが、
抗がん剤はその「がん細胞が増えるのを抑えてくれる」から。
そう、抑えてくれる。
ん、抑えるだけ?
殺してくれるわけではない!?
抗がん剤は「がんをやっつけてくれる」のだと勘違いしている人、
意外と多いのではないでしょうか(わたしもその一人でした…)。
がんをやっつけるのは自分自身の免疫細胞!!!
がん細胞と戦うのは、私たちの体内の免疫細胞です。
単純な話、がん細胞が増えるスピードより
免疫細胞ががん細胞を攻撃するスピードが勝れば、
がん細胞は小さくなり、消滅させることができます。
抗がん剤にはがん細胞が増えるスピードを抑える働きがあり、
それによって免疫細胞ががん細胞を攻撃する手助けをするのです。
でも、辛い副作用が伴うのと、どんな抗がん剤でも
6〜10カ月で効かなくなる(耐性ができてしまう)のがデメリット。
対して、"免疫療法"には副作用がほとんどないそう。
免疫療法とは何か?というと、
"体内の免疫の働きをサポートする"療法です。
人間には「体内にある異常なものを追い出す力=免疫力」が備わっていて、
異常な細胞であるがん細胞ももちろん攻撃対象です。
ただ、がん細胞ももともとは自分の細胞であるため、
「異常だと判断できず、見分けられない」ことがあります。
そこで免疫療法では、免疫にがんが異常なものと教えてあげたりして、
免疫のがんへの攻撃力を高めるのだそうです。
免疫力をアップしよう!
これはある意味、免疫を普段から高めておけば、
がんにかかる可能性を減らせるとも言えるのかも。
「自分ではなにもできない」と思うと無力ですが、
「自分でがんをやっつけられる」となると勇気が湧いてきませんか?
昨今、「免疫力をアップさせる方法」はいろいろ耳にします。
わたしがパッと思いつく限りでも
・基礎代謝を上げる
・胃腸が食べ物の消化をする負担を減らす
・体温を上げる
・睡眠を取る
・笑う
などなど。
谷川先生は、「免疫力は心理面も大きく影響する」と言います。
明るい人、前向きな人、アルツハイマーの人(!)は免疫力が高い傾向があり、
逆に、がんについて考え込んだり、症状が悪化することで、心理的抑うつになると免疫力が低下してしまうそう。
症状が悪化し、例えば痛みが出ているなら我慢せずに薬で抑える。
そして、趣味や仕事に没頭する環境を作るなど、
がんについて考え込むような時間を作らない、与えないのが大切とのこと。
がん患者だからといって、今までやっていた習慣や仕事、家事をやらせないようにすると、
がんを意識したり考え込む時間ができてしまいます。
家族など、周囲の人間がすべきなのは、
できるだけ今まで通りの生活をさせたり、外に連れ出したりして、
がんを忘れさせることだそうです。
いかがでしたか?
「がん」に対する理解が少しでも深まり、むやみに恐れず、前向きな生活を送るヒントになればうれしいです。
わたしはますます「免疫力をアップしまくらないと!!!」と痛感しました。
◉参考:
「わかっているつもりでも、実はわかっていない"がん"の話」セミナー
2016年4月23日 ロサンゼルス(オレンジ・カウンティ)
講師:谷川啓司先生(ビオセラクリニック院長/医学博士)
ビオセラクリニック:http://www.bio-c.jp/
書籍:ベストセラー『がんを告知されたら読む本』